配管工事における危険予知の事例まとめ!事故が起きやすいポイントや安全対策を解説
安全衛生最終更新日:
配管工事の現場には、「転落」「有害ガス中毒」「爆発」などの様々な危険が潜んでいます。
したがって、危険予知を行い事故を未然に防ぐことが重要です。
本記事では、配管工事における危険予知の重要性と具体的な事例をご紹介します。
現場の安全管理体制を見直し、作業員全員が安心して働ける環境づくりを目指しましょう。
危険予知とは?
危険予知とは、職場や作業における潜在的な危険を予測し、対策を立てる活動のことです。
配管工事の現場には様々な危険が潜んでいるため、事前に危険を洗い出し、事故を未然に防ぐことが重要です。
危険予知の概要
危険予知は主に「危険予知活動(KY活動)」と「危険予知トレーニング(KYT)」の2つの形態に分かれます。
2つの危険予知の違いは、下記のとおりです。
■危険予知活動(KY活動)と危険予知トレーニング(KYT)の違い
危険予知活動(KY活動) | 危険予知トレーニング(KYT) | |
---|---|---|
目的 | 現場における日常的な安全確保 | 安全意識を高める |
進め方 | 作業開始前に当日の危険や注意点を確認 | チームで集まり、潜在的な危険について深く議論・分析 |
頻度 | 毎日・作業開始前など | 定期・新作業開始前・事故後の再発防止など |
時間 | 比較的短時間 | より長い時間をかけて実施 |
参加者 | 現場の作業員 | 現場作業員に加え、管理者なども参加することがある |
KY活動は日常的に現場で行う実践的な安全確認活動で、作業開始前に当日の危険や注意点を確認します。一方、KYTは安全意識を高めるための教育訓練で、チームで危険を深く分析し対策を考えるのが特徴です。
KY活動やKYTについて詳しく知りたい方は下記の各記事もあわせてご覧ください。
配管工事で危険予知を行う目的
配管工事の現場で危険予知を行う目的は、「作業員の安全確保」と「工事の円滑な進行」です。
配管工事は、現場環境と作業内容から、特に労働災害が起こるリスクが高い環境にあると言えるでしょう。
配管工事において考えられる主なリスクは、以下のとおりです。
■ 配管工事作業に潜むリスク
作業 | 考えられる主なリスク |
---|---|
高所作業 |
|
狭小空間での作業 |
|
配管の移設作業 |
|
重機使用時 |
|
配管工事における危険予知は、現場環境や作業に潜む多くのリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることが重要です。
また、危険予知を通じて作業員同士がお互いにコミュニケーションを図り、経験や知識を共有することで、現場全体の安全レベルを向上させることも出来るでしょう。
配管工事の危険予知事例まとめ
配管工事の作業に潜むリスクは、工事の種類によって異なります。
したがって、危険予知トレーニングを行う際には工事の種類ごとのリスクを考える必要があるでしょう。
ここでは、配管工事の種類ごとの事故事例を紹介していきます。
実際に起きた事例をもとに、原因や対策を考えてみましょう。
他の工事現場における危険予知事例については下記記事をご確認ください。
水道工事
水道工事は、生活に欠かせないインフラを支える重要な作業ですが、同時に多くの危険が潜んでいます。
特に下水道工事や水道管の敷設、修理作業など深い掘削を伴うことが多く、土砂崩れや転落のリスクが高いです。
また、坑内での作業では酸素欠乏や爆発事故など、様々な危険要素が存在します。
ここからは、水道工事における具体的な危険予知の事例を3つご紹介します。
事例1:下水道管の更新工事で土止め支保工が崩壊
下水道工事の掘削作業には、土止め支保工の崩壊のリスクがあります。
■発生状況
道路開削後の掘削底で作業中、土止め支保工が崩壊し、作業員1名が腹起し角パイプに挟まれて死亡。
■ 原因
- 施工計画書と異なる工法で土止め支保工を設置していた
- 元請と下請間の連絡調整が不足していた
■ 対策
- 施工計画書に基づいた確実な土止め支保工の組立
- 元請と下請間の密な連絡調整と日々の作業内容確認
- 現場での工法変更の禁止と指導
事例2:下水道工事のたて坑内での酸素欠乏症
下水道工事のたて坑内作業には、酸素欠乏症に陥るリスクがあります。
■発生状況
地質調査のためたて坑に入った2名が酸素欠乏により死亡。救助に入った1名も被災し休業。
■ 原因
- 酸素濃度測定を実施していなかった
- 換気が不足していた
- 酸素欠乏危険作業主任者が未選任だった
- 救助時の空気呼吸器を使用していなかった
■ 対策
- 作業前の酸素濃度測定の実施
- 適切な換気の確保
- 酸素欠乏危険作業主任者の選任と職務遂行
- 作業者への特別教育の実施
- 救助時の空気呼吸器の使用
事例3:下水道管敷設工事でマンホール内に喫煙による爆発
下水道管敷設工事のマンホール内作業には、ガス爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
作業者がくわえ煙草でマンホールに入り、爆発して負傷。
■ 原因
- 破損したガス管からガスが漏れていた
- ガス管破損の情報を報告していなかった
- 作業開始前の安全確認を怠っていた
- マンホール内で喫煙していた
■ 対策
- 埋設物の損傷防止と適切な補修・報告
- 作業開始前の安全確認と情報共有
- ガス検知の実施
- 現場内での喫煙禁止と安全教育の徹底
ガス管工事
ガス管工事は、他の配管工事と比較しても特に高い危険性があります。
ガス管工事では可燃性ガスを扱うため、わずかな不注意が大規模な爆発事故につながる可能性があるからです。
例えば、作業中のガス漏れや静電気の発生、溶接作業時の火花など、様々な要因が爆発のリスクを高めます。
また、ガス管は地中や建物内部に埋設されることが多いため、爆発や酸素欠乏、ガス中毒といった閉鎖空間での作業や掘削作業に伴う危険にも注意が必要です。
事例4:LPガス配管工事のエアー抜き作業中に爆発
LPガス配管工事のエアー抜き作業には、爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
作業者がガスメーターのユニオンを緩めてエアー抜き中に爆発が発生し、火傷を負った。
■ 原因
- ユニオンを緩めすぎてLPガスが大量噴出した
- チャンバー内にガスが滞留していた
- 静電気が発生し帯電していた
- 適切な放出措置がされていなかった
- 作業手順が決まっていなかった
■ 対策
- 屋外でのエアー抜き作業の実施
- ガス検知器を用いた慎重な作業
- 静電気防止措置の徹底
- 安全な放出方法の確立
- 詳細な作業手順書の作成と教育実施
事例5:漏れ出したガスに、はつり作業の火花が引火・爆発
ガス管取替工事には、ガス漏れによる引火・爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
ガス管取替工事中、漏れたガスに、はつり作業の火花が引火し大規模な火災が発生。
■ 原因
- ガス遮断装置が適切に設置されていなかった
- 火花を発する工具を使用していた
- 作業標準から逸脱していた
- 関係者間の連携ができていなかった
■ 対策
- ガス遮断装置の改善とガス漏れ検知システムの導入
- 火気使用・火花発生工具の使用禁止
- 作業標準の遵守と変更時の事前協議の徹底
- 安全教育の実施と安全パトロールの強化
事例6:誤って中圧管を穿孔したため、ガスが噴出
都市ガス配管工事には、ガス噴出による事故およびガス漏れによる引火爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
作業者が誤って中圧管を穿孔し、ガスが噴出し1名死亡、2名が酸欠で被災。
■ 原因
- 誤った施工図を作成し使用していた
- ガス噴出時の対応が不適切だった
- 安全管理体制に不備があった
■ 対策
- ガス噴出時の適切な対応手順の確立
- 作業前のガス管種類・圧力の確認徹底
- ガス管理者による工事計画の事前審査
- 緊急時対応マニュアルの作成と教育実施
プラント配管工事
プラント配管工事は、複雑な配管システムと危険物質の取り扱いが組み合わさるため、わずかなミスが大事故につながる可能性があります。
高温・高圧の流体、腐食性の化学物質、可燃性ガスなど様々なリスクが存在し、高い安全性が求められています。
また、狭小な空間での作業や高所作業も多く、物理的に危険な箇所も多いです。
さらに、既存の設備との干渉や、稼働中のプラントでの工事など、特殊な条件下での作業も多々あります。
ここからは、プラント配管工事における具体的な危険予知の事例を、3つご紹介します。事例を参考に、現場での安全管理の質を高めていきましょう。
事例7:水素製造プラントで水素ガスが爆発
水素製造プラントの定期修理作業には、水素ガス爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
水素製造プラントで溶液抜き出し作業中に予備タンク内で水素ガスが爆発。
■ 原因
- 予備タンクへ水素ガスが流入していた
- 静電気によって着火した
- 水素爆発に対する安全対策が不足していた
- ポンプのキャビテーションによる過剰な水素流入があった
- 操作マニュアルが不十分だった
■ 対策
- 溶液抜き出し前の水素ガス安全放出
- タンクの構造改善と静電気対策
- 詳細な作業手順の整備
- 組織的なクロスチェック体制の確立
- 水素ガスの危険性に関する安全教育の実施
事例8:化学プラントの配管から有害物質が流出
化学プラントの配管作業には、有害物質との接触によるリスクがあります。
■ 発生状況
作業者が配管から漏出したモノクロロ酢酸液に触れて死亡。
■ 原因
- バルブ操作が誤っていた
- 作業手順書が整備されていなかった
- 流出時の対応手順が不明確だった
- 保護具を着用していなかった
- 応急措置の知識が不足していた
- 有害物質の有害性に関する教育が不足していた
■ 対策
- 有害物質の安全な排出設備の設置
- 非定常作業の詳細な手順書作成と徹底
- MSDSを用いた有害性の周知
- 緊急時対応と保護具使用の訓練を実施
- 安全衛生管理計画の策定と実行
- 衛生管理責任者による監督強化
事例9:火花がトルエンガスに引火し、火災が発生
化学プラントの定期修理工事には、火災・爆発のリスクがあります。
■ 発生状況
溶断作業中の火花がトルエンガスに引火し、作業者2名が炎に包まれ、1名が死亡。
■ 原因
- 周辺の廃液処理槽にトルエンガスが滞留していた
- 作業前の危険性に対する確認が不足していた
- 新規採用・入場者が作業に従事していた
■ 対策
- 作業開始前の危険有害性調査の実施
- 詳細な作業計画の策定と徹底
- 作業指揮者の選任
- 危険物の漏洩防止措置の確実な実施
- 可燃性ガス濃度の測定
- 作業者への安全衛生教育の徹底
空調配管工事
空調配管工事は、一見すると他の配管工事に比べて危険性が低いように思われがちですが、実際には様々なリスクが潜んでいます。
既存の配管の改修や撤去作業には、残留ガスや高圧の冷媒による事故が発生する可能性があります。
また、配管の溶断作業時には、火災や有害ガスの発生リスクも無視できません。
さらに、天井裏や狭小空間での作業が多いため、転落や酸欠などの危険も伴います。
事例10:溶断された配管の運搬作業中、亜鉛中毒を発症
空調配管の溶断・撤去作業には、金属ヒュームによる中毒のリスクがあります。
■ 発生状況
ビル解体工事で亜鉛メッキ配管の溶断・運搬作業中、作業者が亜鉛中毒で入院。
■ 原因
- 防塵マスクを不適切に使用していた
- 保護具の正しい使用方法が周知されていなかった
- 作業者の安全衛生意識が低かった
■ 対策
- 呼吸用保護具の正しい着用方法に関する研修実施
- ガス溶接作業の健康障害リスクに関する安全衛生教育の徹底
- 作業者の安全意識向上のための定期的な教育・訓練の実施
事例11:冷媒配管切断時に有害物質が漏洩
空調機の撤去作業には、冷媒ガス漏洩による中毒のリスクがあります。
■ 発生状況
作業者が天井裏の冷媒配管を切断時、フロンガスが噴出し中毒症状を発症。
■ 原因
- SDSの内容を確認していなかった
- 作業標準書に不備があった
- 緊急時対応の手順がなかった
- 安全衛生教育が不足していた
- 作業手順・指示が履行されていなかった
■ 対策
- 配管切断作業の詳細な手順書作成と教育実施
- ガス漏洩時の対応手順策定と訓練実施
- フロンガスの危険性に関する安全教育の徹底
- 現場での配管状態の明確な表示と確認体制構築
- 適切な保護具の使用徹底
防災設備配管工事
防災設備配管工事は、建物の安全を守る重要な役割を担う一方で、作業者自身の安全確保も極めて重要です。
特に、スプリンクラーシステムや消火ガス設備の設置・メンテナンス作業には、高所作業や密閉空間での作業など、様々なリスクが存在します。
防災設備配管工事は、墜落・転落事故や有害ガスによる中毒事故など、重大な災害につながる可能性が高いため、徹底した安全対策が不可欠です。
以下に、防災設備配管工事における具体的な危険予知の事例を2つご紹介します。事例を参考に、現場での安全管理をさらに強化しましょう。
事例12:スプリンクラー配管工事中に5階より転落
※出典:建設業労働災害防止協会 災害事例
エレベーターシャフト周辺での防災設備工事には、墜落・転落のリスクがあります。
■ 発生状況
スプリンクラー配管工事中の作業員が5階エレベーター開口部から墜落死。
■ 原因
- 危険区域への不用意な立ち入りがあった
- 開口部の墜落防止設備に不備があった
- 安全標識が設置されていなかった
- 開口部の養生がシートのみだった
■ 対策
- 立入禁止区域の明確な表示と周知
- 安全柵の強化と開口部の確実な養生
- 作業エリアと通路の明確な区分け
- 作業前の安全点検とKYの徹底
- 詳細な作業手順書の作成と遵守
事例13:二酸化炭素消火設備の誤作動によるCO²中毒
※出典:二酸化炭素消火設備の事故にご注意ください(志太消防本部)
防災設備配管工事、特に二酸化炭素消火設備の工事には、窒息事故のリスクがあります。
■ 発生状況
マンション地下駐車場の改修工事中、二酸化炭素消火設備が誤作動し、作業員が死亡。
■ 原因
- 作業員の誤操作によって設備が起動した
- 閉鎖区画から逃げ遅れた
- 安全教育・周知が不足していた
■ 対策
- 手動起動装置への不用意な接触防止
- 音響警報作動時の迅速な退避徹底
- 誤作動時の停止手順の周知
- 設備点検・工事の事前周知徹底
- 設備異常時の速やかな専門家への連絡
配管工事における安全対策は?
配管工事は、「配管工事の危険予知事例まとめ」で取り上げたような事故が起きないようにするためには、以下の対策を実施することが重要です。
- 定期的な危険予知トレーニング(KYT)を実践する
- 作業前のKY活動を徹底する
- 適切な保護具の使用を義務付ける
- 詳細な作業手順書を作成し遵守する
- 作業員への安全教育を実施する
対策を総合的に実施することで、配管工事の安全性を向上させることができます。
特に、定期的な危険予知トレーニングや日頃からの危険予知活動は欠かせません。
配管工事の現場や作業に潜むリスクと対策について考える習慣をつけておくことで、作業員全員の安全意識が高まり、不測の事態にも適切に対応できるでしょう。
まとめ
本記事では、配管工事に潜むリスクと実際の事故事例や対策について解説してきました。
- 配管工事の現場で多い事故は「転落事故」「有害ガス中毒事故」「爆発事故」など
- 配管工事で事故が起こりやすい作業は「高所作業」「狭小空間での作業」「配管の移設作業」「重機使用時」など
- 配管工事の現場は、環境や作業の特性上事故のリスクが高いため、危険予知トレーニング(KYT)を定期的に行い、作業員の安全意識を高めることが重要
配管工事における危険予知は、作業員の安全確保と工事の円滑な進行のためには不可欠です。
危険予知トレーニング(KYT)やKY活動を日常的に実践し、潜在的なリスクを事前に特定・対策することで、事故を未然に防ぐことができます。
適切な保護具の使用、詳細な作業手順書の作成と遵守、そして定期的な安全教育の実施も重要です。取り組みを通じて、作業環境の安全性が向上し、作業員全員が安心して働ける職場を実現できるでしょう。
執筆者・監修者
工事士.com 編集部
株式会社H&Companyが運営する電気工事業界専門の転職サイト「工事士.com」の編集部です。
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