工事現場の危険予知トレーニング事例10選!建設業でのKYTの進め方も解説
安全衛生最終更新日:
工事現場には、「高所作業」や「クレーン作業」「積込作業」など、危険な作業がたくさんあります。
これらの作業には、いずれも様々なリスクが潜んでいます。
工事現場では、KY活動や危険予知トレーニングといった安全確保への取り組みが欠かせません。
厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」によると、2023年の建設業では、死傷災害で14,414人、死亡災害で223人の被害者が出ており、全産業と比較しても高い水準にあります。
本記事では、工事現場での作業におけるリスクや危険予知トレーニングの事例などについて、詳しくご紹介していきます。
高所作業、クレーン作業、積込作業、ダンプトラック作業、解体作業など、具体的な場面での危険と対策を紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
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工事現場(建設現場)における労働災害とは?
工事現場では、主に作業中において「死傷災害」や「死亡災害」といった労働災害が数多く発生しています。
労働災害は作業員の安全と健康を脅かすだけでなく、企業にとっても大きな損失をもたらします。
では、工事現場では実際にどの程度の労働災害が起きているのでしょうか。
最新の統計データをもとに、下記の観点から工事現場の労働災害の実態を詳しく見ていきましょう。
【最新版】労働災害の現状
厚生労働省の調査によると、2023年の建設業における労働災害は、死傷災害が14,414人(前年比125件・0.9%減)、死亡災害が223人(前年比58件・20.6%減)となっています。
長期的に見るとやや改善傾向にあるものの、依然として深刻な課題であると言えるでしょう。
過去5年間のデータは下記のとおりです。
■ 建設業 過去5年間の労働災害(死傷災害)
単位【人】
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
死傷災害 総数 |
15,183 | 14,790 | 14,926 | 14,539 | 14,414 | |
業種別 | 土木工事業 | 3,808 | 3,933 | 4,038 | 3,942 | 3,852 |
建設工事業 | 8,417 | 8,074 | 7,895 | 7,606 | 7,510 | |
その他建設業 | 2,958 | 2,783 | 2,993 | 2,991 | 3,052 |
※出典:厚生労働省 令和5年労働災害発生状況の分析等「表 11 建設業における労働災害発生状況(事故の型別)」
■ 建設業 過去5年間の労働災害(死亡災害)
単位【人】
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
死傷災害 総数 |
269 | 256 | 278 | 281 | 223 | |
業種別 | 土木工事業 | 90 | 101 | 100 | 108 | 87 |
建設工事業 | 125 | 101 | 132 | 117 | 98 | |
その他建設業 | 54 | 54 | 46 | 56 | 38 |
※出典:厚生労働省 令和5年労働災害発生状況の分析等「表 11 建設業における労働災害発生状況(事故の型別)」
建設業の労働災害は全産業と比較すると高い水準にあり、特に死亡災害については全産業の約1割を建設業が占めています。
また、業種別のデータを見ると、建設業の中でも特に「建設工事業」において労働災害が多いことが分かります。
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なお、建設業の工事現場で起こる事故の種類は、主に下記のとおりです。
■ 工事現場で起きやすい事故の種類と傾向
事故 | 傾向 |
---|---|
墜落・転落 | 高所作業が多い建設現場などで発生しやすい |
はさまれ・巻き込まれ | 重機や資材による事故が多い |
転倒 | 足場の悪い現場環境で発生しやすい |
飛来・落下 | 資材や工具の落下による事故が多い |
交通事故(道路) | 現場への移動中や資材運搬時の事故が多い |
少しでも労働災害をなくすためには、事故の傾向を意識しつつ、自分の現場に置き換えて考えることが重要です。
労働災害が起きる原因
工事現場で起きる事故は、主に以下のような要因が複合的に作用することで発生します。
■ 工事現場で労働災害が起きる主な原因
要因 | 内容 |
---|---|
人的面 |
|
環境面 |
|
管理面 |
|
その他 |
|
上記の要因が重なり合うことで、事故のリスクが高まります。
したがって、労働災害を防止するためには、各要因への対策を総合的に実施することが重要です。
具体的な防止策としては、「KY活動」「KYT活動」「ヒヤリハット活動」などの取り組みが効果的です。
工事現場(建設現場)の危険予知トレーニング事例
工事現場の労働災害をなくすには、日頃から危険予知トレーニング(KYT)を行うことが重要です。
ここからは、工事現場のKYT活動で使える事例を1つずつご紹介していきます。
合計10個の事例を紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
なお、危険予知トレーニングのやり方については、本記事内「工事現場における危険予知トレーニングの進め方は?」で詳しくご紹介しています。
1.高所作業
工事現場における最も深刻な事故の一つが高所作業に関連するものです。
厚生労働省の統計によると、建設業の死亡災害のうち、「墜落・転落」が最も多く、全体の約4割を占めています。
危険性の高さから、高所作業の安全確保は現場管理の最重要課題と言えるでしょう。
では、上記イラストのような高所作業ではどのような事故が発生しやすいでしょうか。
ここでは実際に起きた2つの事故例をもとに考えていきましょう。
ケース1.屋根修繕中の踏み抜き事故
高所作業では、屋根で足を踏み抜き作業員が墜落してしまうという危険が考えられます。
■事例
雨漏り修繕のため、工場のスレート屋根上で波形鉄板の敷き込み作業中、作業員が屋根を踏み抜いて約5mの高さから墜落し死亡。
上記の事故は、主に踏み抜き防止措置の未実施や保護帽未着用が原因で起こってしまった事故です。
このような場合の対策としては、歩み板の設置や防網・親綱の使用、安全帯の着用が挙げられます。
ケース2.梁からの墜落事故
高所作業では、梁からの墜落といった事故も起こり得ます。
■事例
墨出し工事中、木造2階床梁の足場から転落し死亡。
上記の事故は、安全に作業するための足場板を十分に準備していなかったこと、安全ネットの不設置、保護帽の未着用などが原因で起こってしまった事故です。
対策としては、足場板を準備し梁材に固定することや、安全ネットの設置、保護防の着用徹底、木造建築物の組立等作業主任者の有資格者による適切な指揮などが挙げられます。
高所作業の危険予知トレーニング事例については「高所作業の危険予知トレーニング(KYT)で使える事例まとめ!安全対策も紹介」でより詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
2.クレーン作業
クレーン作業は、建設現場において重要な役割を果たす一方で、重大な事故のリスクも伴います。
厚生労働省の統計によると、建設業における「はさまれ・巻き込まれ」や「飛来・落下」の事故の多くがクレーン作業に関連しています。
では、クレーン作業中にはどのような事故が発生しやすいでしょうか。
ここでは実際に起きた2つの事故例をもとに考えていきましょう。
ケース3.移動式クレーン転倒による挟まれ事故
クレーン作業では、クレーンの転倒による事故が考えられます。
■事例
自社作業場で移動式クレーンを用いて鉄骨(約1t)を降ろす作業中、クレーンが転倒し、荷台から滑り落ちた鉄骨と地上の鉄骨の間に作業員が挟まれて死亡。
上記事故の原因は、アウトリガーの不適切な使用、作業計画の未作成、安全確認の不足でした。
対策としては、アウトリガーの適切な使用、定格荷重の遵守、作業計画の作成と周知、作業前の安全活動の実施が挙げられます。
ケース4.クレーン作業中のH型鋼落下事故
クレーンの作業中には、吊り荷の落下による事故の危険も考えられるでしょう。
■事例
浄水場建設工事の仮設桟橋解体作業中、移動式クレーンでH型鋼をトレーラーに積み込む際、玉掛け用クランプがH型鋼に引っかかり、積み込んだH型鋼が落下して2名の作業員が下敷きとなり死亡。
上記事故の原因は、クランプの不適切な配置、監視不足、安全確認の欠如、安全教育の不足でした。
対策としては、危険予知活動の強化、作業計画の策定と遵守、安全な器具の使用と正しい使用方法の周知、安全衛生管理体制の整備が挙げられます。
3.積込作業
建設現場における積込作業は、日常的に行われる重要な工程ですが、重機や資材の取り扱いに伴う危険が常に存在します。
厚生労働省の統計によると、建設業では「はさまれ・巻き込まれ」や「激突」などの事故が多く発生しており、その多くが積込作業に関連しています。
では、上記イラストのような積込作業ではどのような事故が発生しやすいでしょうか。
ここでは実際に起きた2つの事故例をもとに考えていきましょう。
ケース5.ドラグ・ショベル転倒による運転手の死亡事故
ショベル作業では、ショベル移動中の転倒による事故の可能性があります。
■事例
残土埋立て工事現場で、ドラグ・ショベルの運転手が傾斜地(18度)をバケットを上げたまま下降中に下降運転し、運転席から投げ出されて機械と地面の間に挟まれ死亡。
上記事故の原因は、無資格者の運転、不適切な操作、作業計画の未作成、安全教育の不足、現場管理の不徹底でした。
対策としては、有資格者による作業、適切な運転操作の徹底、作業計画の作成と安全教育の実施、現場責任者による適切な管理監督が挙げられます。
ケース6.ドラグ・ショベルでの土のう運搬作業中の死亡事故
ショベルでの土嚢運搬中に、つり荷が激突するリスクも考えられます。
■事例
農道橋工事現場で、ドラグ・ショベルを用いて土のう(1t)を移動する作業中、運転手の衣服が操作レバーに引っかかり、機械が急旋回。その結果、吊り荷の土のうが作業員に激突し、さらに反動でドラグ・ショベルにも打ち付けられ死亡。
上記事故の原因は、運転手の不注意、危険区域内での作業、重機の用途外使用でした。
対策としては、適切な重機の使用、作業計画の作成と周知、安全教育の実施が挙げられます。
4.ダンプトラックでの運搬作業
建設現場においてダンプトラックによる運搬作業は不可欠ですが、同時に重大な事故のリスクも伴います。
厚生労働省の統計によると、建設業での「交通事故」や「はさまれ・巻き込まれ事故」の多くがダンプトラック作業に関連しています。
では、ダンプトラック作業中にはどのような事故が発生しやすいでしょうか。
実際に起きた2つの事故例をもとに考えていきましょう。
ケース7.ダンプトラックの後退により挟まれる死亡事故
ダンプトラックの運搬作業では、後退時に近くの作業員が轢かれたり挟まれたりする危険性があります。
■事例
住宅建築現場において、ダンプトラックから砕石を降ろす作業中に事故が発生。ダンプトラックが適切に停止されておらず、突然後退したため、作業していた被災者がダンプトラックと住宅の柱の間に挟まれて死亡。
上記事故の原因は、ダンプトラックを確実に停止させていなかったことと、安全に関する教育が不足していたことが挙げられます。
このような事故を防ぐためには、ダンプトラックを離れる際には必ず確実に停止させ、傾斜地では輪留めを使用するなどの逸走防止措置を講じる必要があるでしょう。
また作業者に対して適切な安全教育を実施することも重要です。
ケース8.ダンプトラックの荷台に挟まれる事故
ダンプトラックの運搬作業では、荷台の下降時に作業員が挟まれるリスクも考えられます。
■事例
道路建設工事現場において、アスファルト舗装のためのバラスト敷き作業中に事故が発生。ダンプトラックに異常が見られたため、作業主任者である被災者がシャシーの点検を行っていたところ、荷台が突然降下し、荷台とシャシーの間に挟まれて死亡。
上記事故の原因としては、被災者が安全支柱を使用せずに危険な場所に立ち入ったこと、運転手が不注意で荷台操作レバーに触れたこと、満載のバラストによって荷台の降下スピードが速かったことなどが挙げられます。
このような事故を防ぐためには、適切な作業手順の徹底、安全装置の使用、作業計画の策定、運転者の注意義務の遵守などが重要です。
5.解体作業
解体作業は建設現場において非常に危険を伴う工程の一つです。
厚生労働省の統計によると、解体作業中の事故は「墜落・転落」「崩壊・倒壊」「飛来・落下」などの形態で多く発生しています。
では、上記イラストのような解体作業ではどのような事故が発生しやすいでしょうか。
ここでは実際に起きた2つの事故例をもとに考えていきましょう。
ケース9.足場解体作業中の墜落事故
足場解体作業中は、足場から踏み外し落下する危険性があります。
■事例
マンションの大規模修繕工事現場で、足場解体作業中に作業員が地上に墜落し死亡。被災者は足場材を運搬中、親綱の中継点で安全帯を掛け替える際に転倒し転落した。
上記事故の原因は、2丁掛け安全帯の不適切な使用、日没による視界不良、監視体制の不備でした。
対策としては、安全帯の適切な使用方法の教育徹底、十分な照明の確保、監視体制の強化が挙げられます。
ケース10.解体作業中の突風による墜落事故
解体作業においては、風にあおられバランスを崩し墜落するリスクも考えられます。
■事例
地上20mのビル屋上に設置された広告塔の塗装後、解体作業中に発生。足場板を持った作業員が風にあおられ、バランスを崩して墜落、死亡。
上記事故の原因は、防護柵や安全ネットなどの墜落防止措置の不設置、元請業者の現場責任者による下請業者への指導不十分、強風時の作業中止判断の不実施でした。
対策としては、墜落や落下の防止措置を講じることや、元請業者等の現場責任者の職務徹底、悪天候時には作業を行わないことなどが挙げられます。
工事現場(建設現場)における危険予知トレーニングの進め方は?
工事現場での危険予知トレーニング(KYT)は、作業員の安全意識を高め、事故を未然に防ぐ重要な活動です。
KYTを効果的に進められる手法が「KYT基礎4ラウンド法」です。
KYT基礎4ラウンド法の流れは以下のとおりです。
■ 「KYT基礎4ラウンド法」の進め方
- 現状把握:どんな危険が潜んでいるか話し合う
- 本質追究:危険のポイントを見つける
- 対策樹立:危険ポイントへの対策を考える
- 目標設定:対策案から実施項目を決める
「1.現状把握」では、チーム全員で意見を出し合い、現場の潜在的リスクを幅広く把握します。
「2.本質追究」では、「1.現状把握」で挙げられた危険の中から、特に重要なものを絞り込みます。
その後「3.対策樹立」では、「2.本質追究」で絞り込んだ危険ポイントに対する具体的かつ実行可能な対策を考え、「4.目標設定」にて、チーム全員で実際に実行する対策法を決めましょう。
KYT基礎4ラウンド法によって、作業員全員が現場の危険を具体的に認識し、安全意識を高めることができます。
危険予知トレーニング(KYT)の進め方の詳細は「危険予知トレーニング(KYT)って?電気工事現場での実践方法を解説」で解説しています。
まとめ
本記事では、工事現場の労働災害の実態や、危険予知トレーニングの事例を紹介しました。
- 2023年の建設業における労働災害は、死傷災害が14,414人、死亡災害が223人
- 工事現場で特に起こりやすい事故の種類は「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」「転倒」など
- 工事現場の危険予知トレーニングの事例は「高所作業」「クレーン作業」「積込作業」「ダンプトラックの運搬作業」「解体作業」など
- 労働災害をなくすためには、習慣的に危険予知トレーニングの「KYT基礎4ラウンド法」を行い、作業員の安全意識を高めていくことが重要
工事現場での作業には、常にあらゆる危険が潜んでいます。
建設現場で働く方や安全管理に携わる方は、今回ご紹介した事例と対策を参考に、日々の作業の安全確保に努めましょう。
危険予知トレーニングを定期的に実施することで、作業員の安全意識を高め、重大事故の防止につなげられます。
執筆者・監修者
工事士.com 編集部
株式会社H&Companyが運営する電気工事業界専門の転職サイト「工事士.com」の編集部です。
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