危険予知トレーニング(KYT)って?電気工事現場での実践方法を解説
安全衛生最終更新日:
危険予知トレーニング(KYT)は、作業現場や日常生活に潜む危険を予知し、その対策を検討することで、安全意識を高める訓練です。
安全管理の一環として日本で広く活用されており、特に建設業や製造業などの危険が伴う作業環境で行われています。
電気工事の現場でも、感電事故や高所からの転落など、さまざまな危険が予測されるため、工事士.comユーザーの皆さんにとっても重要で、身近なトレーニングです。
そこで今回は、危険予知トレーニング(KYT)の方法や実施する際のポイントなどについて詳しく解説します。
危険予知トレーニング(KYT)とは?
危険予知トレーニング(KYT:Kiken Yochi Training)は、作業現場や職場での潜在的な危険を事前に予測し、事故や災害を未然に防ぐためのトレーニングです。
KYTの目的は、作業現場で起こりうる危険を全員で予測し、その対策を話し合うことで、危険意識を高め、安全な作業環境を維持することです。これを行うことで、労働災害の防止や事故のリスク低減に繋げます。
「危険予知トレーニング(KTY)」は、「危険予知活動(KY活動)」とよく混同されますが、厳密に言うと、これら2つは目的と手段が異なります。
■危険予知トレーニング(KTY)と危険予知活動(KY活動)の違い
危険予知トレーニング(KYT) | 危険予知活動(KY活動) | |
---|---|---|
目的 | 安全意識を高めるためのトレーニング | 現場における日常的な安全確保のための行動 |
進め方 | 複数のメンバーが集まり、作業現場に潜む危険について議論する | 現場での作業開始前に、当日の作業における危険や注意点の確認を行うなど |
活動頻度・場面 | 定例・新しい作業が始まる前・事故後の再発防止のために行うなど | 毎日・作業開始前など |
参考:KY活動とは?目的や進め方からネタ切れ問題まで基本情報を徹底解説!
KYT(危険予知トレーニング)は、チームで危険を深く分析し、対策を考える訓練です。時間をかけて現場での危険への理解を深めていきます。
一方、KY活動(危険予知活動)は、作業前などに簡単に危険を確認し安全対策を行う、日常的な安全確認の活動です。
簡単にまとめると、KYTは安全教育が目的のトレーニングであるのに対して、KY活動は現場での実践的な活動ということになります。
危険予知トレーニング(KYT)の方法
危険予知トレーニング(KYT)のやり方を理解するために、基本的な3つのポイントを紹介します。
それぞれについて詳しく解説します。
4ラウンド方式
4ラウンド方式は、広く使われている危険予知トレーニング(KYT)の方法です。
「現状把握」「本質追究」「対策樹立」「目標設定」の4ステップで危険予知トレーニング(KYT)を進めます。
- 第1R:現状把握「どんな危険がひそんでいるか」
- 第2R:本質追究「これが危険のポイントだ」
- 第3R:対策樹立「あなたならどうする」
- 第4R:目標設定「私たちはこうする」
1.現状把握
作業現場やシチュエーションを把握し、その状況下で考えられる潜在的な危険を全員で挙げていきます。
挙げられた危険はシートにどんどんと記載していきましょう。
例:作業中に動いている機械や高所作業、重い物の移動など。
2.本質追求
特に重要と思われる危険に「◯」印をつけていきます。
次に、さらに重要な危険には「◎」とアンダーラインを引きましょう。
例:高所作業での転落、機械の誤作動、重い物の落下など。
3.対策樹立
挙げられた危険に対して、どのような対策を行うべきかを話し合います。
例:安全ベルトの装着、作業中の立ち位置の確認など。
4.目標設定
挙げられた対策の中で、特に重要な対策を絞り込みます。
最後に、確認として全員で「指差し呼称」を行いましょう。
※参考:厚生労働省「Ⅲ KY活動」
ミーティング形式
多くの場合、危険予知トレーニング(KYT)はミーティング形式で行われます。
定期的にチームで集まり、危険予知や安全対策を話し合いながら進めていきます。
ミーティング形式で危険予知トレーニング(KYT)を行うことには、以下のようなメリットがあります。
■ミーティング形式のメリット
- 新たな危険や問題を即座に解決できる
- 議論を通じて危険に対する理解が深まる
- 対話によるコミュニケーションで信頼関係が強化される
ミーティングを定期的に行うことで、現場で新たに発見された危険や問題についてすぐに確認し、解決策を検討できます。
また、グループでディスカッションを行い、危険の本質や原因を深く掘り下げることで、危険を深く理解することが可能です。
複数の参加者が異なる視点で危険を予測して挙げることで、幅広いリスクを認識できるため、ミスや見逃しの防止にもつながります。
さらに、ミーティングを通じて意見を共有することで、チーム内の信頼関係が強化されるのもメリットの一つです。結果的にチーム全体の安全意識が向上します。
カード形式
作業現場の状況を描いたイラストが描かれた「KYTカード」を用い、そのイラストから危険を予測する方法です。
引用:中小建設業特別教育協会「危険予知訓練(KYT)無料イラストシート集」
カード式KYTには、以下のようなメリットがあります。
■カード形式のメリット
- 視覚的に理解しやすい
- 短時間でも実施しやすい
- 反復して訓練しやすい
作業シーンや現場の状況を描いたカードを使用することによって、作業環境や危険な箇所をイメージしやすく、理解しやすいという特徴があります。
また、カードを見ながら同じシーンを共有することで、1人1人のメンバーが見落としていた危険を全員で共有することが容易になります。
さらに、カードを見て瞬時に危険を予測する形式のため、短時間で実施でき、日常の業務に組み込みやすいです。
カードは繰り返し実施しやすいので、定期的な訓練を行うことで、継続して安全意識を高めることができます。
危険予知トレーニング(KYT)を上手に行うためのポイント
危険予知トレーニング(KYT)を効果的に行い、現場の安全性を高めるためには、いくつかのポイントを押さえることが大切です。
以下、危険予知トレーニング(KYT)を上手に進めるためのポイントを解説します。
●ポイントを絞って行う
すべての作業を一度にカバーしようとするのではなく、特定の作業やエリアにフォーカスして行うと効果的です。作業ごとに絞り込むことで、リスクを深く分析しやすくなります。
●参加者全員の意見を重視する
危険予知トレーニング(KYT)では、現場で作業する全員で危険を共有することが重要です。経験の差による意見の違いを活かし、幅広い視点から危険要因を洗い出すと効果的です。
●視覚的なコミュニケーションを取り入れる
危険予知トレーニング(KYT)では、図解やチェックリストなどを用いることで、より理解しやすくなります。危険を見える化することで、メンバーが聞き流すことなく、危険を理解しやすくなります。
●定期的に実施する
危険予知トレーニング(KYT)は一度行って終わりではなく、定期的に繰り返し行うことで、安全意識を維持することができます。継続的に行い、様々なパターンを経験することで、職場環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。
電気工事の現場における危険予知トレーニング(KYT)の例題
ここでは、工事士.comユーザーの皆さんに、電気工事の現場における危険予知トレーニング(KYT)の例題を2つ紹介します。
4ステップ方式を基にした実例ですので、ぜひ実践に役立ててください。
ケース1:試運転部屋での配線作業
1.現状把握/2.危険予測
重要度 | 危険予測 |
---|---|
◎ | 電源を切り忘れて作業し、充電部に触れて感電する。 |
◎ | 電源を切り忘れ、配線を接触させ火花で火傷する。 |
素手で作業すると結束バンドの切り口等で手指を怪我する。 |
↓
3.対策立案
重要度 | 対策案 |
---|---|
※ | 配線前に電源が遮断されているか確認する。 |
※は重点実施項目
↓
4.行動確認
チーム行動目標 | 指差し呼称 |
---|---|
配線作業前は電源が確実に遮断されているか確認して作業しよう | 電源遮断ヨシ! |
ケース2:壁掛けターミナルの配線取り外し作業
1.現状把握/2.危険予測
重要度 | 危険予測 |
---|---|
◎ | 設備クリーニングのため、配線を壁掛けターミナルから外すとき、元ブレーカーの遮断を忘れ作業を行うと、配線を緩める際に漏電し作業者が感電する。 |
◎ | 機械の回転方向を入れ替えるとき、元ブレーカーの遮断を忘れ作業を行うと、配線を緩める際に漏電し作業者が感電する。 |
○ | 配線を壁掛けターミナルから外すとき、元ブレーカーの遮断を忘れ作業を行うと、配線を緩める際に漏電しスパークした火花で火傷を負う。 |
↓
3.対策立案
重要度 | 対策案 |
---|---|
※ | 壁掛けターミナルの通電確認ランプが点灯していないか確認してから作業を開始する。 |
分電盤の元ブレーカーが遮断してあるか確認してから作業を開始する。 |
※は重点実施項目
↓
4.行動確認
チーム行動目標 | 指差し呼称 |
---|---|
壁掛けターミナルで配線の取り外し、入れ替えをするときは、通電確認ランプが消灯しているか確認してから作業しよう | 電源遮断ヨシ! |
その他、危険予知トレーニングの例題集や各工事種別ごとの例題は以下の記事で解説しています。
- 【危険予知トレーニング(KYT)の例題集】工事種別ごとの危険ポイントをチェック
- 工事現場の危険予知例
- 電気工事の危険予知例
- 配管工事の危険予知例
- 危険予知運転の事例
- 工場・製造業の危険予知事例
- 高所作業の危険予知事例
ぜひ参考にしてみてください。
よくある質問(Q&A)
危険予知トレーニング(KYT)に関するよくある質問に回答します。
KYTの頻度はどのくらいが適切か?
KYT(危険予知トレーニング)の適切な頻度は、作業内容や職場環境によって異なりますが、一般的には以下のようなタイミングで実施すると良いでしょう。
- 毎日、始業前に短時間で実施する
- 週次や月次など、定期的に実施する
- 作業内容が変更された際に実施する
- 事故やヒヤリハットが発生した時に実施する
KYTを社内で始めるにはどうすればいい?
社内でKYT(危険予知トレーニング)を始めるには、段階を踏んで進めていくことが重要です。
以下のようなステップを踏むと良いでしょう。
- チームにKYTの目的を共有し、重要性を理解させる
- KYTを主導するリーダーや担当者を社内で決めておく
- KYTシートやツールを用意する
- 全員でKYTの手法を練習する
- スケジュールを設定し、定期的に実施する
チームの全員がKYTの必要性を理解し、積極的に参加できる環境を整えることが何よりも重要です。
まとめ
危険予知トレーニング(KYT)は、作業現場の安全を確保するために非常に効果的な手法です。
日々の業務に取り入れることで、事故を未然に防ぎ、チームの全員が安心して働ける環境を築くことができます。
ぜひ、今回紹介した方法を参考に、職場での安全対策に役立ててください。
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執筆者・監修者
工事士.com 編集部
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